無精ひげの晩酌記 第三夜|丸くても良い夜

日常・コラム

帰れば…

帰れば金麦。そう決めているわけじゃない。でも、冷蔵庫を開けると、だいたいそこにいる。

無精ひげのまま、年季の入ったこのタンブラーを手に取る。

長い年月をともにした相棒だ。

プシュッ、という音が静まり返った部屋にやけに響く。「帰れば金麦」そんなコピーを見たことがある。でも今日は少し違う。帰れば――何だろうな。

安堵か。現実か。それとも、何も考えなくていい時間か。

理由なんてない。

それだけでいい夜もある。

無精ひげはまだ剃らない。明日も休みだからな。

青い缶は、もう半分空いている。帰れば――とりあえず、これでいい。

「丸くなるな、星になれ」

二本目は、黒ラベル。冷蔵庫の奥から引っ張り出した。

白い缶に、黒い円。その中心に、オレンジの星。

「丸くなるな、星になれ」

若い頃は、こういう言葉に少しだけ熱くなった。今はどうだろう。

丸くなったか?…なったな。

無精ひげはそのままだけど、心は少し削れて、角も落ちた。

でも、悪くない。

プシュッ。

音が低い。タンブラーに注ぐと、泡が立つ。きめ細かい。

一口。

ガツンとくる苦味。のどごしがいい。スッと抜ける。

「ああ、これだ。」

丸くならなくていい。

星にもならなくていい。

ただ、今日をやり切った男であればいい。

面倒くさがり

今日の肴。ボラとホタルイカ。

皿に移せばいいのに、面倒でそのままトレー。洗い物は、増やさない主義だ。

小皿に醤油を垂らして唐辛子。

ボラは淡白だが、噛むと甘い。ホタルイカは、内臓の苦みが残る。ビールの苦味と、ちょうどいい。

転がしながら

ホタルイカはそのままでもうまい。

でも今日は、焼く。

フライパンに並べて焦げないように転がす。

強火にはしない。急がない。

塩胡椒をひと振り。じわっと音がして、ワタの香りが立ち上る。熱を入れると、内臓のコクがぐっと濃くなる。苦味が、深みに変わる。

黒ラベルを流し込む。ガツンとくる苦味に、ホタルイカの濃厚さが絡む。

転がしながら考える。人も同じだな、と。

強すぎる火は、焦がす。

弱すぎる火は、何も変えない。

ちょうどいい熱で、自分のワタのコクを出せればいい。皿の上のホタルイカが減っていく。無精ひげの夜は、静かだ。星にはならなくていい。焦げなきゃ、それでいい。

最後はこいつ

でも、やっぱり最後はこいつ。どら◯もんのマグ。

無骨なタンブラーでもなく、洒落たグラスでもない。

青い顔で、こっちをじっと見ている。

焼酎を注いで、ポットのお湯を足す。ふわっと湯気。アルコールの角が丸くなる。

さっきまで「丸くなるな」なんて言っていたのに。

丸いどら◯もんで呑んでいる(笑)

まあ、そんなもんだ。

最後は、丸くていい。

まとめ

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