帰れば…

帰れば金麦。そう決めているわけじゃない。でも、冷蔵庫を開けると、だいたいそこにいる。
無精ひげのまま、年季の入ったこのタンブラーを手に取る。
長い年月をともにした相棒だ。
プシュッ、という音が静まり返った部屋にやけに響く。「帰れば金麦」そんなコピーを見たことがある。でも今日は少し違う。帰れば――何だろうな。
安堵か。現実か。それとも、何も考えなくていい時間か。
理由なんてない。
それだけでいい夜もある。
無精ひげはまだ剃らない。明日も休みだからな。
青い缶は、もう半分空いている。帰れば――とりあえず、これでいい。
「丸くなるな、星になれ」

二本目は、黒ラベル。冷蔵庫の奥から引っ張り出した。
白い缶に、黒い円。その中心に、オレンジの星。
「丸くなるな、星になれ」
若い頃は、こういう言葉に少しだけ熱くなった。今はどうだろう。
丸くなったか?…なったな。
無精ひげはそのままだけど、心は少し削れて、角も落ちた。
でも、悪くない。
プシュッ。
音が低い。タンブラーに注ぐと、泡が立つ。きめ細かい。
一口。
ガツンとくる苦味。のどごしがいい。スッと抜ける。
「ああ、これだ。」
丸くならなくていい。
星にもならなくていい。
ただ、今日をやり切った男であればいい。
面倒くさがり

今日の肴。ボラとホタルイカ。
皿に移せばいいのに、面倒でそのままトレー。洗い物は、増やさない主義だ。
小皿に醤油を垂らして唐辛子。
ボラは淡白だが、噛むと甘い。ホタルイカは、内臓の苦みが残る。ビールの苦味と、ちょうどいい。
転がしながら

ホタルイカはそのままでもうまい。
でも今日は、焼く。
フライパンに並べて焦げないように転がす。
強火にはしない。急がない。
塩胡椒をひと振り。じわっと音がして、ワタの香りが立ち上る。熱を入れると、内臓のコクがぐっと濃くなる。苦味が、深みに変わる。
黒ラベルを流し込む。ガツンとくる苦味に、ホタルイカの濃厚さが絡む。
転がしながら考える。人も同じだな、と。
強すぎる火は、焦がす。
弱すぎる火は、何も変えない。
ちょうどいい熱で、自分のワタのコクを出せればいい。皿の上のホタルイカが減っていく。無精ひげの夜は、静かだ。星にはならなくていい。焦げなきゃ、それでいい。
最後はこいつ

でも、やっぱり最後はこいつ。どら◯もんのマグ。
無骨なタンブラーでもなく、洒落たグラスでもない。
青い顔で、こっちをじっと見ている。
焼酎を注いで、ポットのお湯を足す。ふわっと湯気。アルコールの角が丸くなる。
さっきまで「丸くなるな」なんて言っていたのに。
丸いどら◯もんで呑んでいる(笑)
まあ、そんなもんだ。
最後は、丸くていい。
まとめ

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